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“めまい・ふらつき”とは
「目が回る」、「めまいがする」、「ふらふらする」と訴えて外来に来られる患者さんは大勢いらっしゃいます。耳鼻科でも扱いますが、実は、耳の異常だけに収まらない病気も多く、内科全般を踏まえて扱うべき重要な症状です。めまい・ふらつきの具体的な内容はかなり個人差がありますが、実際上、4種類に分けて考えると分かりやすいです。さて、あなたはどのタイプに最も近いですか?
第1は、「天井や壁、または自分自身がグルグル回っている感覚」、あるいは「上下左右に揺れている感覚」、あるいは極端な場合には「自分が立っているのか寝ているのかすらわからないような感覚」です。これはvertigo(回転性めまい)と呼ばれるもので、眼球が反対方向に勝手に動いていること(眼振と言います)を反映しています。もちろん、目を閉じてもこの感覚は消えません。しばしば嘔気・嘔吐を伴います。試しに、頭をやや前屈してフィギュアスケートのスピンのようにぐるぐる回った後急に止まってみて下さい。その時に誰でも感じる感覚がこのvertigoです(もし感じなければむしろ異常の可能性があります)。これは耳の奥にある内耳の中の前庭迷路と呼ばれる場所、およびそこから伸びる前庭神経や、その脳内の終点である前庭神経核が左右不均等に刺激されることによって生じる感覚です。なぜ末梢または中枢前庭系が刺激されると眼振が生じるかというと、前庭神経核および前庭小脳が眼球運動の調節に深く関わっているからです。
第2は、「足下がふわふわする感覚」、あるいは「雲の上を歩いているような足が地に着かない感覚」、あるいは「頭がボーとしてふらつく感覚」です。これはdizziness(浮動感、浮動性めまい)と呼ばれるもので、基本的に眼振や異常眼球運動を伴いません。前庭系の異常というより大脳前頭葉や深部感覚の障害、または心因性によることがあります。また、睡眠不足やストレス、貧血により誘発されることもあります。
第3は、上記2つの中間型のめまいです。成書ではめまいを回転性めまい(vertigo)か浮動性めまい(dizziness)にあたかも明確に分けられるかのように記述されることが多いですが、実際の患者さんはどちらのタイプとは一概に決められないようなめまいをしばしば訴えられます。軽度の回転性めまい(vertigo)を浮動性めまい(dizziness)のように自覚することも多いようです。めまいの性状が中間型だからといって、その原因が上記の中間、または足して2で割ったものというわけではありません。複雑な要因が絡んでいることもあります。
第4は、上記の3種類のめまいとは異なり「急に立ち上がったり、長時間同じ姿勢を取った後に生じる眼前暗黒感」、「目の前がスッーと暗くなるあるいは白くなると同時に意識が遠のくような感覚」です。これは脳全体とりわけ脳幹部を灌流する血流が減少するために生じるもの、つまり脳虚血(俗に言う脳貧血)です。脳循環不全を引き起こすような頭蓋内外動脈狭窄、低血圧または起立性調節障害、血管迷走神経反射、徐脈性不整脈、大動脈弁狭窄症、本当の貧血などが背景に存在することがあります。
このように一口に“めまい・ふらつき”と言っても病態や原因はさまざまです。“めまい・ふらつき”を感じたら最も大切なことは、めまい・ふらつき以外にどんな症状があるかを考えることです。物が二重に見える(複視)、手足に力が入らない、手足に力は入るが動きがぎこちない、ろれつが回らない、耳鳴り・難聴がある、など。もし当てはまるならすぐに神経内科を受診してください。
”めまい・ふらつき”の原因と治療
第1は、回転性めまい(vertigo)です。これは耳の奥にある内耳の前庭迷路やそこから脳に向かってのびる前庭神経(これらを末梢前庭系と呼びます)、または脳内にある前庭神経核や前庭小脳、それらと脳や脊髄内の他の部分をつなぐ神経連絡路(上行性・下行性内側縦束など)(これらを中枢前庭系と呼びます)の障害で起こるめまいです。多くは頭位めまい症(頭を動かしたり姿勢を変えることで誘発されるめまい)の形をとりますが、まったく頭を動かさないのにめまいが突発することもあります。
このタイプのめまいの原因としてまれですが異常脳幹・小脳の出血または梗塞、脳腫瘍など中枢神経系の重篤な疾患がありますので、それを見逃さないことが大切です。そのためには:
- 一定の頭位をとり続ける限り回転性めまい(vertigo)も続く
- 眼振が強い割にめまい感が軽い
- めまい以外の局所神経症状を伴う(物が二重に見える(複視)、ろれつが回らない、手足に力が入らない、手がふるえて物をうまくつかめないなど)
もしこれらの症状があるならすぐに神経内科を受診してください。
末梢前庭系障害による回転性めまい(vertigo)の代表が有名なメニエール病と良性発作性頭位めまい症(BPPV)です。メニエール病は、内リンパ水腫が関与するといわれていますが真の原因はまだよくわかっていないようです。この病名が安易につけられ(あるいは患者さん自身がそう思い込んで)ひとり歩きしていることをしばしば経験しますので注意が必要です。一方、BPPVといえば耳石障害、と安易に決めつけられる傾向がありますが、実際に耳石が半規管内を浮遊している画像をとらえることは困難です。また、加齢に伴う前庭系の変性や血管障害(虚血)による場合もあると言われています。いずれにしろ、BPPVだとすればその名の通り良性疾患ですから、急性期には嘔吐を伴い患者さんの苦痛は強いですが約2週間で自然に消失します。ただし、ストレスや睡眠不足などで再発を繰り返す方も多いようです。
治療法は、耳石障害だとはっきりすれば耳石を元の位置に戻す特殊な治療手技があります。また、前庭神経系を抑制する抗めまい薬、脳循環改善剤、制吐剤、頓服として酔い止め薬を用います。
実は、回転性めまい(vertigo)または頭位めまい症の原因として最も多いのは前庭性片頭痛(vestibular migraine)だと言われています。これは最近注目されている特殊なタイプの片頭痛ですが、現在または過去に片頭痛をもっていた人に、しばしば(いつも頭痛を伴うとは限りませんが)頭痛発作とともにこの種のめまい発作を併発するものです。従来、メニエール病やBPPVと診断されていたものの中に前庭性片頭痛(vestibular migraine)が隠れていたと考えられます。
治療法は、片頭痛として治療を行ないます。そうすれば、頭痛とめまいの両方が治ります。
第2は、浮動性めまい(dizziness)です。これは大脳とくに前頭葉、また下肢末梢神経障害でも引き起こされることがあるめまいですが、病変の局在を特定できないこともあります。また、睡眠障害や不安・抑うつ気分など心因性のこともあります。器質的異常の有無を調べるために画像検査や神経電気生理学検査が必要です。
治療法は、原疾患にもよりますが薬物療法だけに頼らず、規則正しい生活習慣、身体の回転や姿勢変化を伴う運動を日常生活に積極的に取り入れることが効果的です。
第3は、上記2種類の中間型のめまいです。急性期や典型例では回転性めまい(vertigo)が出現するような病気でも、慢性期や非典型例ではしばしばこのタイプのめまいになることがあります。先に述べた第1のタイプのめまいの時期がなかったかどうか、これまでの経過が重要です。治療法は上記に準じます。
第4は、眼前暗黒感です。このタイプはめまいというより脳灌流圧の低下による失神(syncope)の前段階に相当するものです。脳幹の血流不足を来す種々の病気(低血圧症、起立性調節障害、心疾患、血管迷走神経反射、脱水、高度の貧血など)が原因になりますが、高齢者の失神では約3割が原因を特定できないと言われています。
ここで特に注意しておきたいことは、このタイプのめまいまたは失神を一過性脳虚血発作(TIA)と誤診されることが非常に多いことです。TIAは脳卒中の前駆症状と考えられる重要な病態ですが、TIAの局所神経症候として失神が出現するのは、脳幹部を養う太い動脈である脳底動脈灌流圧が一過性に極度に低下した場合や、一側大脳半球の広範な障害を持つ方が反対側の内頚動脈または中大脳動脈灌流圧が一過性に極度に低下した場合などごく限られた病態しかありません。その場合は失神から短時間で回復した後も大なり小なり運動感覚障害など他の局所神経症候を残すことがほとんどです。逆に言えば、一過性に失神をしてもその後ややボーとした期間をへて麻痺などを示さなければまずTIAは考えにくいのです。TIAを疑い抗血小板薬を漫然と投与して時間を無駄にせず、主幹動脈狭窄の有無、徐脈性不整脈や弁膜症など心疾患の有無の精査を早く進めなければなりません。
治療法は、適正な血圧を維持し脳血流不全を解消するために、まず頭をやや低くして安静臥床します。
平衡異常と運動失調の違い
ひとくちに「目が回る、ふらつく、真っ直ぐに歩けない」といってもその背景にはいろいろな病気が隠れているのですよ、ということを知って頂くために動的平衡異常と運動失調の違いについて説明します。できるだけ分かり易く説明しますがこれは中々ややこしい問題ですので細かいことは気にせずに、世の中にはそんなものがあるのか、とその存在を知っていただければ十分です。
ヒトがある姿勢を維持する、または、ある一つのまとまった滑らかな運動するためには筋、末梢神経、脊髄、前庭系、脳幹、小脳、視床および大脳基底核、大脳皮質がすべて正しく働いている必要があります。このうちどれか1つでも狂ってしまうと、いわゆる「めまい・ふらつき」が生じます。その原因として平衡異常と運動失調が考えられます(もちろん、麻痺や不随意運動があっても「めまい・ふらつき」を生じるかもしれませんが、ここではそれは少し横に置いておきます)。
平衡異常(要するにバランスがとれないこと)には静的平衡異常と動的平衡異常があります。静的平衡異常は皆さんも想像がつくように、身体が揺れて一定の姿勢を維持できない状態です。一方、動的平衡異常はある動作をしている最中に身体の重心線を一定の範囲内に留めておくことができない状態です。この動的平衡異常と似て非なるものに運動失調があります。平衡異常と運動失調はしばしば併存することもありますが、われわれ神経内科専門医はこれを見分けられるように診察します。なぜなら、両者を確実に鑑別することが正しい診断と治療の出発点だからです。たとえば、内耳の三半規管の障害では平衡異常は起こりますが運動失調は起こりません。運動失調は耳鼻科ではなく神経内科が扱う病気です。
運動失調とは簡単に言うと“麻痺が無いのに自分の思うように上手く身体を動かせない状態”です。それが上肢に起こると「字が上手く書けない」、「お箸が上手く使えない」、「ボタンを上手くはめられない」、「靴ひもを上手く結べない」となり、体幹や下肢に起こると「まるで酔っ払いのように左右によろけてまっすぐ歩けない」となります。さらに話す時に起こると「途切れ途切れの話し方」、「非常に粘っこい独特な話し方」になります。平山恵造著「神経症候学改訂第2版」(文光堂)の中で動的平衡異常と運動失調の違いが巧みに説明されていますのです少し長くなりますが以下に引用します。
動的な運動時の平衡異常を説明するにはサーカスの綱渡りがわかり易い。綱渡りでは綱の上で左右の足を前後に置き、左右に揺れる綱の上で平衡をとっている。前進するには後の足を前の足を越えて前に送り出さねばならない。
その間、重心線は動揺するが、支持脚の足底の範囲内にある(もし逸脱しても両上肢を適当に使って速やかに矯正する)。この間に後方の運動脚を前へ運んで前方の綱の上に乗せ、体重を両脚にかけるようにして、綱渡りの一歩は成功する。
即ち、姿勢平衡から運動平衡を経て、再び姿勢平衡に至ったものである。もし運動脚が円滑に前方に移動しても、この間に重心線が支持脚の足底から逸れ、その矯正ができなくて、綱から落ちるようであれば、動的平衡が障害されていることになる。それとは異なり、運動脚の足の運びが適切でなく、足を持ってゆくべき綱上の位置を行き過ぎたり(測定過大hypermetria)、行き足りなかったり(測定過小hypometria)、あるいはその間の足の動きがぎくしゃくして(動揺oscillationまたは運動分解decomposition)、目的の位置に足が到達せず、その結果綱から落ちたのであれば、これは運動脚の運動失調によるものである。上記二つが重なって綱から落ちたのであれば、平衡異常と運動失調の合併によるものである(しかしそれを平衡失調という言葉で表現すべきではない)。
つまり、運動失調は運動機能障害の一種であり、協働筋と拮抗筋の働きを調節して協調運動が上手くできない状態です。話をややこしくしているのは、末梢および中枢前庭系と小脳には密接な関係があり、小脳梗塞や脊髄小脳変性症では平衡異常と運動失調が同時に出現することがあることです。
ただの「めまい・ふらつき」ではないかもしれない、と思ったらわれわれ神経内科専門医にご相談下さい。